個別最適な学びを実現する体つくり運動の設計と実践法(磐田地区教育研究会小学校保健体育部研修会)

研修会開催日 2025年10月17日
受講生満足度
4.82(29)

現場の先生方にとっての悩みの種ともいえる「体つくり運動」。

「レパートリーがほしい」、「そもそもどんな運動をすればよいのか分からない」、「男女共修はどうすれば」といった様々な声をよくお聞きします。

今回の研修会では、そんな体つくり運動を題材として、最近よく耳にする教育キーワードのひとつである「個別最適な学び」を実現する方法を紹介しました。
お集まりいただいたのは、静岡県磐田市内の小学校の先生方、約30名です。

体つくり運動の難しさ

「体つくり運動の授業をしよう」となったら、まず「学習指導要領の内容を確認して」となるのがスタンダードなプロセスです(もちろん「学習指導要領の確認はあとから」という授業準備も可能ですが)。しかし、現行学習指導要領の第5・6学年「A体つくり運動」「(1)知識及び技能」に目を通すと、その内容が非常に多様であることに気づきます。

  • 運動の行い方を理解する
  • 手軽な運動を行う
  • 体を動かす楽しさや心地よさを味わう
  • 運動をすると心が軽くなったり、体の力を抜くとリラックスできたり、体の動かし方によって気持ちも異なることなど、心と体が関係し合っていることに気付く
  • 運動を通して自他の心と体に違いがあることを理解する
  • 仲間のよさを認め合う
  • 仲間の心と体の状態に配慮しながら豊かに関わり合う楽しさや大切さを体験する
  • 体力の必要性や体の動きを高めるための運動の行い方を理解する
  • 自己の課題を踏まえる
  • 体の各部位の可動範囲を広げる
  • タイミングやバランスよく動く
  • リズミカルに動く
  • 自己の体重を利用したり、人や物などの抵抗に対してそれを動かしたりする
  • 一つの運動又は複数の運動を組み合わせて一定の時間続けて行う
  • 一定の回数を反復して行う

これらすべて、第5・6学年の体つくり運動(「体ほぐしの運動」と「身体の動きを高める運動」)に記述されている内容です。もちろん、「すべての内容を扱うこと」という決まりはないのですが、それにしても、多岐にわたっていますね。

さらに難しいのは、ほかの領域と違って、「何をすればよいのか分かりにくい」ということです。水泳であれば「泳ぐ」、ボール運動であれば「投げる、捕る、蹴る」といったように、既存のスポーツがベースとなっている領域は何をすればよいのか分かりやすいのですが、体つくり運動はそうではありません。一応、学習指導要領の[行い方の例]には、

  • 伸び伸びとした動作で全身を動かしたり、ボール、なわ、体操棒、フープ、などの用具を用いた運動を行ったりすること。
  • リズムに乗って、心が弾むような動作での運動を行うこと。
  • ペアになって背中合わせに座り、互いの心や体の状態に気付き合いながら、体を前後左右に揺らすなどの運動を行うこと。
  • 動作や人数などの条件を変えて、歩いたり走ったりする運動を行うこと。
  • グループや学級の仲間と力を合わせて挑戦する運動を行うこと。
  • 伝承遊びや集団による運動を行うこと。
と書かれてはいるのですが、結局、「ボールを使った運動って何?」、「仲間と力を合わせて挑戦する運動ってどうやるの?」となってしまうのです。これは、ボール運動で「ボール操作を教えるならドリブルやパス、シュートを扱えばいい」とすぐにイメージできるのとは、訳が違います。

ですから、「体つくり運動で何をすればよいか分からない」というお悩みを抱えてしまうのも仕方ありません。さらに、考えれば考えるほど、段々と分からなくなっていくことがあります。例えば、

「豊かに関わり合う楽しさや大切さを体験する」って書いてあるけど、「豊かに関わり合う」ってどんな関わり方なのか分からない…

「体の柔らかさ、巧みな動き、力強い動き、及び動きを持続する能力を高める」って書いてあるけど、他の領域でやったらダメなのかな…

このように学習指導要領を読むだけでは授業づくりが難しい。それが体つくり運動なのです。

研修会の主な内容

そんな体つくり運動ですが、どうすれば授業が楽しくなるのか、そして個別最適な学びを実現するにはどうすればよいのか。本研修会では、そのヒントとなる方法や考え方を紹介させていただきました。

このページでは、その一部を掲載いたします。

これからの体つくり運動の考え方

  • 他の単元の技能につなげる必要はありません。
  • レパートリーは少なくても大丈夫です。
  • それぞれに役割を与えてあげることが、個別最適な学びへの第一歩!

よく「他の単元で、授業の最初の10分を体つくり運動に」とお考えの先生がいらっしゃいますが、無理にそうする必要はありません。また、「児童が飽きないようにレパートリーを」をいう方も多いですが、体つくり運動はひとつの運動で何時間もの授業を行うことが十分に可能です。そして、体育の場合は「その子の得意を見出し、役割を与えてあげること」が大切です。これが「個別最適な学び」への最初のアプローチとなります

おすすめの運動は「長縄跳び」

体つくり運動の行い方の例には、ボール、なわ、体操棒、フープなどが記されていますが、その中でも圧倒的におすすめなのが「長縄跳び」です。10人程度でチームを編成でき(チームの人数が多少異なっても問題にならない)、比較的単純な動きだけど繊細さが求められ(少しの動きのズレで引っかかってしまうので巧みさが必要)、継続すれば持久力も養われます(一つの動きを継続する運動)。なにより、目標回数を達成したときなどの一体感、高揚感を味わえることが、授業のやりやすさに大きく影響します。

いろいろな跳び方で、飽きずに技能を高められる

長縄跳びには、多くのバリエーションがあります。簡単な二人跳びから、やや難しい三人跳び、そして一致団結する八の字跳びなど、児童の運動技能や単元の時間数に応じて、柔軟に跳び方を変えていくことで飽きずに技能を高めることができます。

今回の研修会では、以下の跳び方を紹介し、参加された先生方に練習していただきました。

  • 二人跳び
  • 二人跳びイン&アウト
  • 前後二人跳び
  • 二人跳びリレー
  • 三人跳び
  • 大交差跳び
三人跳びを練習している参加者の先生方

個別最適な学びを実現するための役割分担

長縄跳びでは、跳ぶ人(ジャンパー)だけでなく、縄を回す人(ターナー)も必要です。「いかに跳びやすいように回すか」を考え、そのスキルの習得を目指すのも、立派な学習と言えますそこに分析係がいたとしたら、一緒に課題を考えることができますから、「協働的な学び」の環境も整いやすくなるのです

また、現実的な話をすると、運動の苦手な子が得意な子と同じように課題をクリアし続けるのは難しいのです。初めは簡単な練習からスタートしたとしても、どこかでついていけなくなってしまいます。その時点で無理にやらせるのではなく、分析側に回るというアプローチがひとつの選択肢になると考えています。

PowerPointを使った長縄跳び運動の視覚的分析法

しかし、例え分析係を設けたとしても、ただ観察しているだけでは、気づけることは限られています。そこで「ICTの活用」という発想になりやすいわけですが、実際はそんなにうまくいくわけではありません。なぜなら、体育授業に特化した動作の分析アプリは限られており、現状、無償版で使い勝手の良いものはほとんどありません。

そこで、MicrosoftのPowerPointにグリッド線を表示して動画を再生し、ジャンプ高の不足や、踏み切り位置のズレ、跳んだあとの膨らみ具合などを分かりやすくする方法を紹介しました。


今日の研修会では、「体つくり運動の考え方」、「長縄跳びの様々な跳び方」、そして「個別最適な学びを実現する方法」、「PowerPointの新しい活用法」を紹介し、現場の先生方にとって有益な体験と情報をお届けできたことと思います。

ご参加くださった先生方、大変お疲れさまでした!