優秀な子どもの生活習慣とは - 子や孫に伝えたくなるここだけの話 - (浜松市民アカデミー)

講演会開催日 2025年9月24日
受講生満足度
4.49(51)

今回は浜松にお住いの皆様の前で、僭越ながら講義をさせていただきました。

今回依頼された「浜松市民アカデミー」とは、浜松市が毎年開催している生涯学習プログラムで、静岡県内の大学教員が週替わりで講義を行うというものです。今年で33回ということですから、結構な歴史ですね。

私の専門は、保健体育科教育とスポーツデータサイエンス・アナリティクスですが、受講生の皆様はご年配の方が多いとのことだったので、「どちらも身近なテーマではないな…」と、ご依頼を頂いたときから「何のテーマで話そうか」悩み続けておりました。

結局は「お子さん、お孫さんに伝えられるネタのほうがマシかな」と思い、筑駒時代の研究成果を使って、「優秀な子どもの生活習慣とは?」というチャレンジングなテーマにしました。

現代の子どもの健康取り巻く諸問題

「令和を生きる子どもたちには、生活習慣や健康、体力、学力などに関する様々な問題があります。もちろん、平成・昭和に比べてよい点も多々ありますが」という前置きで始まりました。

昔に比べて就寝時刻が遅くなっている(平均睡眠時間が7時間未満の子どもが一定以上いる)、朝食の喫食が増えている、体力・運動能力が向上していない、ゲーム依存・ネット依存が急増している、といった問題についてあれこれ解説していると、「ふむふむ、なるほど」といった反応を見せてくださる方も結構いらっしゃいました。

さらに深堀していくと、「朝食を食べる頻度が多いほど、学力テストの平均正答率も高い」とか、「適度な睡眠時間(7~8時間)であるほど、体力テストの合計点が高い」といった、生活習慣と学力、体力との関係性があると言われています。

実際はどうなのか

文科省ですら「朝食を食べてる方が、体力が高い」、「ゲームの短い方が、学力が高い」、さらには「体力の高い方が、学力も高い」といった、生活習慣と学力・体力の関係性のデータを報告しています(全国学力・学修状況調査や、全国体力・運動能力、運動習慣等調査をご覧いただければわかります)。しかし、よく考えてみてください。

  • 朝ご飯を毎日しっかり食べるだけで、試験の成績あがりますか?
  • 「来月の体力テストに向けて、毎日8時間寝るぞ!」を継続していれば、早く走れるようになりますか?
  • 「もうすぐ期末試験だ。体力と学力には関係があるらしいから、筋トレしよっと。」果たして筋トレすれば頭もよくなりますか。

答えはすべてノー(いいえ)なんですよね。もしかしたら、「相関関係」はあるけど「因果関係」はないのかもしれない。そうだとしたら、生活習慣と学力・体力の関係性はどう説明されるのだろうか。

その答えは「隠れた要因」にある

世の中には、ある現象と別の現象において、両者に直接的な関係がなく、その背後にある共通因子によって影響を受け、あたかもそれら二つが因果関係を持っているかのように見える場合があります。

「体力と学力」もその一つの例です。体力が高ければ学力も高いというのは見せかけの相関で、実はその背後に子ども一人ひとりの「頑張る力」という隠れた要因が存在しています。「頑張る力」をしっかり持っている子は、勉強も頑張れるし体育やスポーツも頑張れる、だから両方高まって、その結果として体力と学力に関係性があるように見えるのです。

このような「見せかけの相関」が、睡眠や食事、ゲームやスマホといった「生活習慣」と「学力・体力」の間にも存在します。私たちが中学生3,425名を対象にした研究(文献1)では、スクリーンタイムが直接的に「体力・学力・意欲」を下げたり、「健康状態」を悪化させたりすることはほとんどなく、「スクリーンタイム」が長くなると「入浴・睡眠・朝食」の習慣が乱れ、それが「健康状態」の悪化を招き、最終的に「体力・学力・意欲」を低下させる、という間接的な因果関係があることが分かっています。

ということは、スマホやゲーム、テレビ等は、一概に「悪」というわけではなく、入浴、睡眠、朝食(つまり夜から朝の生活)を乱さない程度に止めることができればよい、ということなのです。

中学生の生活習慣と体力・学力の関係性を分析した構造方程式モデリング(文献1をもとに作成。本稿では、「ニューメディア使用」を「スクリーンタイム」、「生活習慣」を「入浴・睡眠・朝食」と置き換えて表記。適合度指標などは原文を参照してください。

「自己管理力」が大切

多くの子どもは「もっとゲームしたい」、「友達とLINEしたい」、「SNS見たい」といった欲求を持っています。これ自体は、現代において普通のことと言えるでしょう。しかし「ゲームばっかりしてたら頭悪くなるよ」とか、「スマホは危険だからダメ」といった表面的な理由でそれを制限するのは軽率です。繰り返しますが、スマホやゲーム(=スクリーンのあるデバイス)自体が悪いのではなく、生活習慣が乱れるほどそれらを使ってしまうことが、健康状態の悪化と体力・学力、そして意欲の低下を招くのです

発想を変えると、「デバイスをある程度の時間(1時間程度が理想)で自ら止められる」という自己管理能力を身につけることが大切なのです。そうした自己管理能力を持つ子どもは、試験前に「もっとゲームしたいなぁ」と思っても切り替えて勉強できることでしょう。「LINEでまだ友達と会話したいな」と思っても、「もう寝る時間だから止めなきゃ」と自分をコントロールできるはずです。こうした自己管理能力が、勉強、スポーツ、そして大人になったときの仕事や育児にも転移し、良い影響を及ぼすことと思われます。

何をもって「優秀」と定義するかには議論の余地がありますが、優秀な子どもには、自己管理された生活習慣があるのです

ご清聴くださった皆様、ぜひ、お帰りになってお子さん、お孫さんに伝えてみては?


文献1: 徐広孝, 西嶋尚彦, 小澤治夫,子どものニューメディア使用と健康生活,子どもと発育発達,9(4): 234-239, 2012

この記事は、講演実施日より前に発表された統計資料や、徐研究室の研究結果をもとに執筆しています。すべての子どもに該当するわけではありません。また、時代の経過とともに一般的傾向が変わる可能性があります。