夢を叶えるための生活習慣の秘訣(さいたま市立植竹中学校講演会)
さいたま市様、株式会社ユーフォリア様との共同で推進している「コンディショニングに係る実証事業」の一環で、さいたま市立植竹中学校の1、2年生の生徒さんと保護者を対象に講演会をしてきました。
この実証事業は、スポーツデータと理論に基づく適切な指導機会を創出することにより、さいたま市内の子どもたちが、安心・安全にスポーツに取り組める環境の実現を目指しています。
今回の講演のテーマは「夢を叶えるための生活習慣の秘訣」です。学業、スポーツ、芸術など、何かしらの夢を抱いている生徒は多いですが、それを叶えるために必要なのは能力やセンスだけではありません。トップアスリートが試合に勝つためにコンディショニングをするのと同じで、どんな中学生であろうと、あらゆる活動の土台となる生活習慣をいかに整えるか。これが重要なのです。少々大げさかもしれませんが、そんな話を約1時間、語ってまいりました。

生活習慣にまつわるデータとその誤解
全国学力・学習状況調査や、全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果では、「朝食を食べている方が学力が高い」や「ゲームの時間が長い方が学力が低い」、「睡眠時間が適度な7~8時間が最も体力が高い」、「都道府県単位で見ると体力と学力には相関がある」と報じられます。
しかし、朝食をちゃんと食べるようになったからと言って、それだけでテストの点が良くなるわけではありません。ゲームをやめたからと言って、頭がよくなるわけではありません。毎日理想的な8時間の睡眠をとったからと言って、体力が上がるわけでもありません。筋トレして体力がついたからと言って、頭がよくなるわけでもありません。
つまり、生活習慣と体力・学力には単なる相関関係に過ぎず、因果関係があるわけではないのです。
もちろん、食事は栄養学的に大切ですし、運動や睡眠は脳と身体の発達に欠かせません。またゲームのやり過ぎは依存のリスクがあるので要注意です。これから主張することは、食事、睡眠、運動の大切さを、別の観点から読み解くということをご理解のうえ、お読みください。
相関関係の裏には共通の理由がある
では、なぜ生活習慣・体力・学力には相関関係があるのでしょうか。それは、両者の背後に共通する要因があるからです。
「体力が高いと学力も高い」という相関の背後には、子どもの「頑張る力」が影響しています。「頑張る力」を持っている子は、体育や運動部活動も頑張れるし、試験勉強も頑張れるのです。その結果、体力もが学力もある程度は高くなります。個人単位ではそのような相関はあまり見られませんが、都道府県単位に集約すると、その傾向が見られます。
「生活習慣と学力・体力」も同じ理論で、子どもの「自己管理力」が影響しています。「自己管理力」が高い子は、寝るべき時刻になったらちゃんと寝る、スマホやゲームをやめるべき時にやめられる、勉強すべき時に勉強できる、やるべき時にトレーニングすることができるのです。その結果、望ましい生活習慣が身につき、体力や学力も高まります。
言い換えると、やりたいことばかりを優先して、やらなきゃいけないことを先送りしているようではダメなのです。

自己管理力の統計的根拠
「自己管理力」の重要性を裏付ける統計データがあります。携帯電話(スマホ)・ゲーム・テレビから成る「スクリーンタイム」因子と、入浴・就寝・起床・朝食から成る「夜から朝の生活」因子、現在の体調・症状・日中の眠気から成る「健康状態」因子、そして体力・学力とそれらの向上意欲から成る「体力・学力」因子の因果関係を、構造方程式モデリング※という手法で専門的に分析した結果が以下の図です。
図中の矢印は因果関係の向きを表し、数値(係数)は0~1の間を取ります。0は無影響、1は完全な影響の強さを意味します。感覚的には0.7くらいあれば相当強い影響、0.4くらいはそこそこ強いの影響があると考えてください。
※構造方程式モデリングとは、直接測定できない潜在因子間の因果関係を分析する手法です。

それぞれの因子間の影響を整理すると、次のようになります。
- 「スクリーンタイム」- 0.1 →「体力・学力」
係数0.1は非常に小さいので、スマホやゲームをすること自体が直接的に体力や学力を下げるとは言えません。 - 「スクリーンタイム」- 0.05 →「健康状態」
係数0.05も非常に小さいので、スマホやゲームをすること自体が直接的に体調の悪化や日中の眠気を誘発するとは言えません。 - 「夜から朝の習慣」- 0.18 →「体力・学力」
係数0.18はやや小さいので、就寝時刻が遅くなったり、朝食を抜くこと自体が直接的に体力や学力を下げるという影響はわずかです。 - 「スクリーンタイム」- 0.53 →「夜から朝の習慣」
係数0.53は比較的大きいので、スマホやゲームは就寝時刻を遅らせたり、寝坊を誘発したり、朝食の欠食に影響すると言えます。 - 「夜から朝の習慣」- 0.55 →「健康状態」
係数0.55は比較的大きいので、非入浴、遅寝、遅起き、欠朝食といった夜と朝の習慣の悪化が、体調不良に影響するということです。 - 「健康状態」- 0.31 →「体力・学力」
係数0.31は少し強いので、体調が悪くなると、勉強や運動に対する意欲が上がらなくなり、長期的に学力も体力も上がりにくくなると考えられます。
こうした因果関係を整理すると、スマホやゲームに依存する → 夜と朝の生活習慣が乱れる → 体調が悪くなる → 段々と授業や部活・塾などに取り組めなくなり、体力や学力が上がらなくなる、という間接的な因果関係があるのです。
逆に言うと、生活習慣や健康状態が悪化しない程度であれば、ゲームやスマホに制限をかける必要はないとも言えます(もちろん、各家庭や学校でのルールには従ってくださいね)。そう聞くと「どのくらいの使用時間が目安になるのか」という疑問が浮かび上がると思いますが、それについては本記事では割愛させていただきます(講演会当日はお伝えしたのですが)。
中学生のうちに身につけておきたいこと
多くの中学生は、学業やスポーツ、芸術などの分野で何かしらの目標を持っていることと思います。勉強、トレーニング、稽古、レッスンを頑張ることは不可欠ですが、それだけではなく、中学生のうちに「自己管理力」を高めておくことが大切です。なぜなら、誘惑に負けず「やらなきゃいけないことを、やるべきときにやる」という行動が習慣化されなければ、自分の能力を最大に伸ばすことができないからです。
毎日の生活で、規則正しい生活を送る努力してみましょう。そうすることで自己管理力が高まります。言い換えると、日々の生活は自己管理力の育成の機会なのです。
1時間にわたる講演を聞いてくださった植竹中の生徒さんと保護者の皆様、大変お疲れ様でした!
出典
- 令和4年度 全国学力・学習状況調査「結果資料」
https://www.nier.go.jp/22chousakekkahoukoku/factsheet/middle.html- 令和3年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査「結果資料」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/kodomo/zencyo/1411922_00003.html- 徐広孝,西嶋尚彦,小澤治夫(2012),子どものニューメディア使用と健康生活,子どもと発育発達,9(4): 234-239.






